冬馬に、同じ研究室の友人ヒロユキが頼んできた。
「一回おうたってくれや。な?」
なんでも同じ一般教養の講義を取っている他学部の女子から、冬馬を紹介してくれと頼まれたらしい。その女子も、引っ込み思案の友人から頼まれたとのこと。
「めんどくせえなあ」
「話するだけや。俺もおるから。な?」
外でちゃんと会うとなると面倒なので、キャンパス内の喫茶コーナーでなら、ということで冬馬は承諾した。
「じゃあ、俺らは話あるから」
当日、ヒロユキは付き添いの女子と一緒にすぐ去って行った。
残されたのは冬馬と、目が前髪で隠れて表情が読み取れない小柄な女の子だけ。
(無口な子だな)
大学の授業のことなど、無難な話をしながら、冬馬は適当なところで切り上げようとした。すると、その女子がもじもじしながら、付き合って欲しいというようなことを言ってきた。
冬馬はそれをきっぱりと断った。好きな人がいるからと。
その子はショックを受けたようだったが、最後まで前髪から目は出ず、表情は見えなかった。
そんなことがあって一週間後。丘陵研究会の部室で冬馬は七緒から詰問された。
「あんた、うちの学部の子、もてあそんで捨てたって話になってるよ」
「はあ?」
詳しく訊くと、あの目が隠れている女子のことのようだった。冬馬はうんざりしながら経緯を説明した。七緒は腕組みをしてうなった。
「あの子、やばいって噂は聞いてたけど、本物じゃんそれ。こわ。まあしょうがない。あたしが話つけるから。この件は任せて」
頼もしいな七緒は。
冬馬は感謝した。
その3日後である。
冬馬の目の前に、七緒とその目隠れ女子が現れた。七緒はあっけらかんと笑う。
「いやー。話聞いてると、いい子なんだよねー。そんで一回一緒に遊びに行こうって話になってさ。まあまあ。いろいろ誤解もあったかも知れないけど。ここはあたしの顔を立ててさ」
全然、篭絡されてるじゃねーか!
その子は、七緒の横でうんうん頷いている。
なんだかんだでカラオケに行くことになってしまったが、そこになぜか小熊もついてきて、ピリピリした空気のなかで交流は行われた。
数合わせで連れてこられた野々口など、異様な雰囲気を察知して、脂汗を流していた。
そんなことがあった数日後。冬馬が丘陵研究会の部室に行くと、小熊が床に正座していた。
「あ、冬馬ぁ。あんたもなんか言ってよ」
隣の七緒が困った顔で訴えてくる。
「昨夜のことです」と小熊が背筋を伸ばしたまま説明をした。
「すそを打たれまして」
「すそ?」
「人の放つ呪いです。おそらく、丑の刻参りかなにかだと。私の部屋に生霊がきておりましたので、とっさに退魔術にて反撃しました」
そう言って小熊は手をついて頭を下げた。
「あのカラオケの時の女性(にょしょう)に相違ありません。手加減いたしませんでしたので、本体のほうも無事ではすまないはずです。これから警察に出頭いたします」
「ちょっとちょっと待った。生霊って。ええ?」
「今までお世話になりました」
顔を上げた小熊は真剣な表情だ。
七緒も困った顔で頭を掻いている。
そうこうしていると部長がやってきた。
「かくかくでしかじか」
七緒の説明を、ふむ、と聞いていた部長は、「まず事実確認。警察はその後」と的確に指示し、冬馬には「あなたはもうその子に関わらないで」と厳命した。
なにか釈然としない思いを抱きながらも、冬馬は頼もしい部長に感謝した。
それからしばらくして、冬馬は一般教養棟であの目隠れ女子を見かけた。
無事だったんだ。良かった。
そう思って話しかけようと近づいたが、その子は逃げるように去って行ってしまった。
「あの、ちょっと」
上げた手の下ろしどころがなく、困惑していると、一緒にいたヒロユキが冬馬の肩を叩き、しみじみと言った。
「そうかあ。冬馬。フラれたんか。まあええやろ。女なんかほかにいくらでもおるわ。俺に任せえ。合コン、セッティングしたるからな」
なぜか叫びたくなった冬馬は、その衝動をぐっと堪えると、ヒロユキの提案を丁重に断った。
340『第76話 日常28 生霊』
posted by 巨匠
| Comment(1)
| 丘陵研究会へようこそ






歴史は繰り返すということか。