二条神社だ。大きな敷地に囲まれた場所だった。そこだけは都市の喧騒から空間的に切り離され、ゆったりとした時間が流れているようだった。
神社へは、北と南の二つの入り口があった。二人は正面玄関にあたる南ではなく、北側から敷地内に入った。
入り口付近にある鳥居も、南にあるものより小さい。
「冬馬くん。二条神社について知っていることは?」
「まあ、ここはよく来ますからね。毎年正月の初詣とか。たしか、宇喜多家ゆかりの神社なんですよね」
「そう。戦国時代、宇喜多直家がこの地に城を築く時に、その守護のために寄進して造営されたとされている神社ね。祭神は、倭迹迹日百襲姫命(やまとととびももそひめのみこと)。吉備津彦命(きびつひこのみこと)の姉ね。副祭神は、その吉備津彦命や、日本武尊(やまとたけるのみこと)など」
あいかわらず部長はスラスラと語る。どうしてそんなに詳しいんだろうか。冬馬は畏敬の念を抱いた。語学も堪能だと聞いているが、容姿と相まって、才媛という言葉が重なって見える。
平日の神社は、人影もまばらで、境内の背の高い木々の落とす影と、その木漏れ日の中を並んで歩いた。
「見て。冬馬くん」
部長が指さしたのは、鳥居の前に二体並んでいる狛犬だった。
「これを見て、なにか気づくことはないかしら」
「狛犬で、ですか」
なんだろう。南にあるやつよりも古いようだ。苔むしている。近くに寄って、触ってみた。どこにでもあるような狛犬だ。向かって右のやつが口を開けていて、左のやつが閉じている。阿と吽だ。
「たしか、向かって右が獅子で、左が狛犬なんですよね」
わりとメジャーな豆知識だ。そのくらいは知っている。
「よく見ると、微妙に形が違ってて……」
言いかけて、冬馬は首を傾げた。
「あれ?」
左右どちらも、やけに顔がシャープで、口がとがっている気がする。どっちが獅子で、どっちが狛犬か、というよりも、これは……。
「え? キツネ?」
部長がにっこりと笑った。
「正解」
言われてみると、たしかに左右どちらも狐だ。狛犬じゃない。
「南の鳥居のところにいるのは、獅子と狛犬だけど、こっちの北側はキツネなの。面白いでしょ。実は宇喜多直家は二条神社を建てたというより、元々この地にあった神社を再建したのよ。元の神社は火事で廃墟になっていたらしいわ。そして、この北側の『狛犬』のキツネは元の神社の時代からあったもの。ということは、その元の神社は……?」
部長に問いかけられ、冬馬は納得して答えた。そういうことか。
「稲荷神社」
稲荷神社では狛犬のかわりを務めるのが、キツネの像なのだ。
「そのとおり。そしてその稲荷神社を建てたのは、鎌倉時代のこの地の有力者。黒図党よ」
「黒図先輩のご先祖が建てた神社だったんですか」
「ええ。稲荷神社は、黒図党、そして黒道氏の守護神」
部長は二体のキツネに頭を下げて別れを告げ、鳥居をくぐった。石畳の道が続く。
「黒図党の先祖にあたる、日備葦牙の伝説の一つに、こういうものがあるの」
背の高い鎮守の森の空から零れる光が、部長のワンピースをまだらに染めている。歩くたびにそれが形を変えて、冬馬は見つめながらながらついていく。
「彼が西暦734年に一度目の遣唐使の任を終えて、日本に帰ってくる時、その船にはある神獣が乗っていたとされているわ」
「神獣? 中国の神獣って、麒麟とか鳳凰とかのことですか」
「ええ。その舟に乗っていたのは、かの名高い、九尾の狐よ」
「え。それって、うしおととらの」
部長は笑った。
「そうね。うしおととらの白面の者。日本史上の伝説では12世紀、鳥羽上皇に仕えたとされる女官、玉藻の前。上皇の寵愛を受けながら、彼をとり殺し、天下を乱そうとした狐。陰陽道の安倍泰成に退治されたとされる。元は中国の殷代に、妲己という名で人に化け、王を惑わせた怪物。その後インドの王朝や、周王朝などでも人心を惑わせたとされる大妖怪よ」
「それを日本に連れて来たのが」
「日備葦牙というわけ。大和朝廷にとっては厄災でも、彼の一族である黒道氏、そして子孫の黒図党にとっては、九尾の狐は守護神なのよ。だから稲荷神社を各地に作った。その伝統は、現在でも受け継がれている。黒図くんはね……」
部長は人差し指を立てて、意味深な口ぶりで言った。
「ケモナーなの」
「ケモナー」
「黒図宗家の男子は、九尾の狐の夢を見て、精通を迎えるらしいの」
ブッ、と思わず吹いてしまった。冬馬は口を押さえて真顔の部長を見る。今のは本当にこの人が言ったのだろうか?
「それが黒図宗家の男子の秘跡。そうして精通を迎えた男子は、九尾に授かった狐火を操ることができるらしいわ」
「狐火? 火。黒図さんのパイロキネシスのことですか」
「黒図くんは、フロギストンって言っているけどね」
「なんでしたっけ」
「フロギストン、燃素ね。火が燃える現象が、現代のようには解明されていない時代に考えられていた、架空の元素よ。燃える物質は、その燃素を含むものと考えられていた。例えば、木炭は、灰と燃素の混合物で、それが燃焼することで、燃素が大気中に放出され、あとには灰だけが残る。燃素を失った状態の灰は、それ以上燃えることはない。黒図君の持論では、霊体はその燃素、フロギストンを含むんだって。フロギストンに着火する能力を持つ黒図君は、霊を燃やすことができる」
たしかに、それを見せられた。あれは最初の出会いの時だ。狂乱した男の霊を、黒図は燃やした。
しかし、あれは、現実だったのか?
冬馬の記憶には鮮明に残っている。しかし、その場に居合わせたはずの部長やほかの部員たちには、その記憶がないのだ。少なくとも今は。
それにしても、ケモナーとは。
「ケモナー」
また言った。部長は不満そうな顔をして頬を膨らませている。
「黒図君はね。前に、七緒ちゃんをフッたの。その時、酷いことを言ったのよ」
「え。七緒フラれたんすか」
なんだか楽しい話になってきた。
「君には、足りないものが二つある、って。酷くない? 七緒ちゃん泣いてたんだから」
「足りないもの、ですか。なんだろう。女性としての、慎み、みたいな?」
「そんな精神論じゃないわ。足りないからって言っても、絶対に埋めることができないものよ」
部長はぷりぷり怒りながら、指を二本立てた。ピースサインだ。
「二つの尾。七緒は、九尾に、二本足りない」
「あ」
それは、ひどい。
「ケモナー許すまじ」
部長は左右の人差し指を額に当て、鬼になった。
「あ、でもこれ七緒ちゃんには言っちゃだめよ。余計に傷つくから」
その後、冬馬は部長に連れられて大学に向かった。文学部の研究室棟に用があるらしい。
教授や助教授の研究室が並ぶ研究室棟は独特の空気が漂っていて、冬馬は苦手だった。大学を、就職までのモラトリアムの場所と捉えている学生には、あまりにも重苦しい空間なのだ。
人のいない薄暗い廊下は、カツカツという靴音がやけに大きく響く。
「考古学研究室の三島教授の部屋よ」
部長は廊下の中ほどにあるドアの前で立ち止って言った。
「丘陵研究会の顧問をしてくれているの」
冬馬は会ったこともなかった。
「まあ、名義だけね。どこのサークルもそんなものよ」
ノックをすると応答があったので部屋の中に入った。
「失礼します」
整然とした室内に、眼鏡をかけた白髪の男性がいた。
「やあ。音田君」
「お時間を取っていただいて、ありがとうございます」
三島教授は机の上のノートパソコンを閉じ、七三分けの頭を整えるような仕草をして、立ち上がった。
「まあ掛けたまえ。お茶を入れよう」
「あ、私が」
部長は勝手知ったる様子で、窓際の棚を開けた。
「丘陵研究会の新入生かね」
問いかけられ、冬馬は名乗った。
「先日連れて来てくれた二人を入れて、これで1回生が三人か。思ったより盛況じゃないか」
教授は指折り数えている。どうやら七緒と野々口は、冬馬の入部前にあいさつに来ていたらしい。名義だけだという顧問の教授に対して律儀なことだ。部長はこういうところが如才ない。
「今日は、彼を連れて日備町に行ってきました。記念館と、史跡を少し回りました」
部長の入れたお茶を囲んで、三人ソファに座った。
「そうかね。今日は暑かっただろう。まあ、かりんとうでも」
冬馬は差し出された袋に遠慮なく手を伸ばした。
「冬馬君は、黒道氏(クロツミチウジ)と、その末裔の黒図党(クロツトウ)に興味を持ったようです。特に黒図党について。三島教授は黒図党ゆかりの史跡を、いくつも発掘調査された方なのよ」
「昔の話だよ。近頃は文献調査ばかりだ」
教授は居心地悪そうに髪を触った。
「教授。古墳時代から奈良時代ごろにかけて、黒道氏がこの日備地方に勢力を持っていましたが、黒図党が出てくるまで少し時代が空きますよね。どのようにして、黒図党が頭角を現したのですか」
部長が訊ねると、三島教授は頷いて冬馬に向かって答えた。どうやら冬馬のための質問だと、了解してくれているらしい。
「律令国家体制が進んで、地方の豪族たちの統治権が中央に収公されたんだ。そのかわり、彼らは郡司(こおりのつかさ)として地方行政官となった。黒道氏もそうだ。しかし、国司(くにのつかさ)という、中央から派遣された上役の、下にある立場だ。ようするに大和朝廷の支配体制が確固たるものになっていく過程で、地方の豪族たちも国家の行政機構に組み入れられていった、ということだね。そして、律令国家から、王朝国家体制への転換期には、土地制度や税制の改革によって、農民の中から、田堵(たと)、負名(ふみょう)層という新たな、公田経営、租税納入の請負をする富豪が生まれた。そうして相対的に郡司である黒道氏たちの力は衰えた」
冬馬は頷きながら聞いていたが、センター試験用に詰め込んだ日本史の知識はすでに薄れかけていて、その頬は強張っていた。それを見てとった三島教授は、ざっくりした口調になった。
「そういう新しい富豪の輩(ふごうのともがら)たちは、中央の有力貴族と組んで、税をまともに納めなくなってね。政府に金が無くなってきたんだ。そこで筆頭国司に権限を集中させ、受領(ずりょう)として地方の統治体制の強化を図った。力のある富豪の輩たちは、私兵を抱えて受領に抵抗し、納税を拒んだ。それに対し、受領側も下級貴族などから武芸に長けたものを集め、武力で対抗した。これが武士の起源とされている」
「では黒図党は?」と部長が口を挟むと、教授はお茶を手に取った。
「黒道氏の末裔の郡司層は、最初は反受領側として武士と敵対する立場だった。いわゆる兵(つわもの)だね。しかし、ある時から荘園勢力と組んで、武士化した。そうして武士団となり、黒図党(クロツトウ)と呼ばれるようになるのは、11世紀半ばだね。黒図党は強かった。彼らはもともと、黒道氏のころから、大和勢力に先駆けて、西から、つまり九州から入って来た軍馬の生産に力を入れていてね」
教授は立ち上がり、日備葦牙の史跡に関するパンフレットを持ってきて、テーブルに置いた。
「これが黒図党の旗印だよ」
見ると、丸に囲まれた馬の横顔の意匠が描かれている。
「日備丘陵の馬産地を囲い込んでいた黒図党は、軍事力をメキメキと上げて、東の備前地方へも勢力を広げていった」
冬馬はその馬の旗印を見て、驚いていた。小川家に養子に入る前の実家である寺には、その馬の旗印にそっくりな紋様がいたるところにあった。部長から、黒谷家もまた黒道氏の末裔だと聞かされていたことと、繋がった気がした。
なるほど。
冬馬は、冬に生まれたから冬馬という名前になった、と聞かされていた。では馬はどこから来たのだろうか、とずっと思っていた。名付けた母はもういない。答えてくれる人はいなかったが、なるほど。どうやら馬は、西から来たらしい。
「馬といえば、教授は黒図党の馬塚を発掘されていますね」
部長がそう言うと、三島教授はギクリとして顔を強張らせた。
「埋蔵文化財センターの所長をされていたころでしたか」
冬馬には、部長の黒目がちの瞳がくるりと光ったように感じられた。
「馬塚に納められていた、馬霊刀の現物を発掘されたんですよね」
「音田君」と教授は部長の言葉を遮った。「私は懲りたんだよ。いじめんでくれ」
弱ったような顔で懇願する教授を見て、冬馬はなにか部長が彼の弱みを握っているのだと直感した。
「それでね。黒図党は鎌倉時代、室町時代を通じて備前、備中で一定の勢力を維持していた」
教授は早口で続けた。
「備前、備中で赤松氏、山名氏や細川氏などと争っていたが、戦国時代初期には浦上氏、尼子氏などに押され、武士団としての領地支配権を失うに至った。それでも黒図党は寺社勢力へと変貌を遂げ、生き延びた。今の黒図家(クロズケ)だね」
部長はゆっくりと頷いた。
冬馬はそれまでクロツ、クロツトウ、という響きをずっと聞かされていたが、時代が下り、ついにクロツが黒図(クロズ)になった。それを聞いて、自然に緊張する。
教授は沈痛の面持ちで息を吐いた。
「黒図君は、本当に残念だったね。あんなに若くして亡くなってしまうなんて」
「ええ」
部長も顔を伏せている。
「私は、彼が黒図宗家の直系だと知って、驚いたよ。彼の協力を得られたら、長らく進んでいなかった、日備丘陵の未調査地の発掘に道筋を立てられたかも知れなかった」
教授は両手で額を覆った。
「残念だ」
「あの」
黙って聞いていた冬馬は、そこで初めて口を開いた。
「黒図先輩はどうして亡くなったんですか」
教授は、部長の顔をチラリと見ながら、「急病だと、聞いているが」と答えた。
それに対して、部長はこくりと頷くだけだった。
急病。本当にそれだけなのか?
冬馬は疑念を持った。
「教授」
部長が静かに口を開くと、三島教授の頭部が再び揺れた。自分の孫ほどの年齢の大学生を恐れているようだった。
「黒図党は武士団としての力のほか、呪術、まじないの類をもっぱらにしたと言われているようですが……。例の馬霊刀のほかにも、とても恐れられた術があったそうですね」
「あ、ああ。まあこれは、伝説にすぎないがね。彼らは黒火(クロツヒ)という呪術を使ったと言われている」
教授は立ち上がって、壁面の黒板に『黒火』と書いて、クロツヒ、と仮名を振った。
「クロツヒ」
冬馬は口の中でその言葉を反芻した。聴き覚えはなかった。
「とても恐ろしい呪術だよ。黒図党は、その先祖の黒道氏の時代に、日備葦牙が中国から連れ帰ったとされる、九尾の狐を守護神として崇め奉っている。その九尾の狐が黒道氏に授けたのが、クロツヒだ。読んで字のごとく、黒い火。これがどれほど恐ろしいものか、わかるかね」
冬馬は首を振った。
「クロツヒの火種は、光を発さない、漆黒の火だとされる。そして、クロツヒによって燃やされたものもまた、黒い火となって燃え広がる。想像したまえ。現在の人工の光に囲まれた時代ではない、中世から戦国期にかけてのころだ。陽が落ちて、人々が寝静まった時間には、どの集落も暗闇の中だ。特に、月明かり、星明りのない曇りの日に、夜の底は完全なる暗闇の世界。そんな中で、クロツヒによって建物が燃やされたら、どうなると思うかね?」
そこまで言われて、冬馬はことの恐ろしさに気づいた。
「火事に、気づかない」
「そうだ。誰も気づかないままに黒い火は燃え広がり、人々は火に包まれるその瞬間まで、寝入ったままなのだ。いや、屋内にいるものは、パチパチという音や、迫る熱気に目覚めるだろう。しかし、わけのわからぬまま、目に見えない火に包まれて、その身を焦がす熱気にもだえ苦しんでいる時も、一体なにが起こっているのかわからないのだ。そうして闇の中で燃え尽きて死んでいく」
ぞっとした。それは想像を絶する光景だった。
「黒図党は、時にこの秘術を敵対勢力の領地に放ったとされる。少し想像すればわかるはずだ。これは絶対に使ってはいけない禁忌の力だ。黒図党がこれを使いはじめた時、周辺の諸勢力は、一致団結して黒図党を叩いたと言われている。それ以来、黒図党はクロツヒの使用を控えるようになったとされるが、他の勢力もまた、黒図党を追い詰めることができなくなった。その時の合従軍の被害も甚大だったからだ。伝説によれば、戦国時代に黒図党が滅んだのは、クロツヒの扱いを誤り、自らの本拠地を灰燼に帰してしまったからだと言われている」
教授は、そこまで言うと、それまでの重い口調を改めて、「まあ、あくまで伝説の類だ」と笑った。
部長はその向かいで、表情を凍らせて目を伏せている。
「あ、そろそろ」
三島教授は腕時計を見て、慌てた口調で言った。
「すまないね。講義の準備で」
「いえ。本日は、お時間を取っていただいて、ありがとうございました」
冬馬は、部長と並んで頭を下げ、教授室を辞去した。
研究室棟の廊下は、来た時よりも気温が下がっているかのようだった。
うすら寒い空気の中を歩きながら、冬馬は再び部長に問いかけた。
「黒図先輩はなぜ死んだんですか」
部長の被る白いキャスケット帽が、薄暗い廊下に揺れ、やけにくっきりと浮かんで見える。
前を歩く部長は振り向かずに、背中越しに答えた。
「焼死よ。黒図くんは、丘陵研究会の部室の中で、突然黒い火に巻かれて死んだ」
「黒い火?」
この今、冗談で言うようなことではなかった。なにより、部長の、感情を殺したような低い声が、それが真実であることを告げていた。
「理由はわからない。見ていた私たちにも、なにが起こったのか、まったくわからなかった。でも、黒図くんは、確かに黒い火に包まれて、死んだ。……いえ」
部長が振り向いた。青白い顔だった。
「消滅したの。跡形も、残らなかった」
「消滅? そんなことあるわけないでしょう」
「ええ。私たちはみんな、集団幻覚を見たのかと思ったわ。でもそれから、黒図くんは私たちの前から消えた。黒図くんの実家にそのことを連絡すると、それからすぐに黒図暁(さとる)は病死したと大学に連絡したそうよ。まるでこうなることを予期していたみたいに」
「実家って、例の黒図宗家ってやつですか」
「ええ。黒道氏、黒図党の系譜を継ぐ一族よ」
それから、二人は大学の学食に入った。まだ昼ご飯を食べていなかったのだ。もう夕方近い。
中途半端な時間帯で、学食はすいていた。人のいない窓際のテーブルに座って、二人ともカレーを食べた。部長はカレーが好きらしい。
「それで、あなたが見た黒図くんというのは、幽霊とは違うのね」
部長はハンカチで口元を拭いてから訊ねた。
「幽霊というか、生きている人間そのものですよ」
冬馬は未だになにが起きているのか、整理できていなかった。
「彼が部室にいる時、私たちはみんな彼が生きているものとして接している。そして、それ以外の時に、私たちはその記憶を失う」
確認するようにつぶやく部長に、冬馬は補足する。
「記憶を失うというか、改ざんされるんですよ。都合よく」
「やっぱり、信じられないわね」
部長は椅子に背中を預けた。
「なにより不思議なのは、なぜあなただけ、その記憶を保っているのか。というところ」
「それは」
冬馬は口ごもった。
丘陵研究会全員の集団幻覚なのか。それとも冬馬だけが不可解な妄想にとらわれているのか。
向かいの部長が、じっと冬馬を見ている。その目の奥の正気を、見通そうとするように。
※聖地情報あり
『黒火(クロツヒ) 』の聖地情報を読む
《作中での扱い》
南門側に獅子と狛犬が鎮座する二条神社

出典:Google Maps
◇
《作中での扱い》
同じ二条神社だが、狛狐が鎮座している北門側

出典:Google Maps
岡山神社(作中では二条神社)は、宇喜多直家が岡山城を築く際に、直家の寄附により現在の場所へと遷し、岡山城の守護神とされた神社である。
主祭神は、
・倭迹迹日百襲姫命(やまとととびももそひめのみこと)
副祭神は、
・日本武尊(やまとたけるのみこと)
・吉備津彦命(きびつひこのみこと)
とされており、作中の二条神社のものと一致している。
その他の副祭神は大山昨命(おおやまくいのみこと)、倉稻魂命(うかのみたまのみこと)、武安霊命(たけやすびのみこと)、妹姫命(いもひめのみこと)。
一対ではなく二対分の狛狐が見えているのは、北門側に「稲荷神社」と「日吉神社・清光稲荷」の二つの稲荷社があるため。
余談だが、副祭神の吉備津彦命(きびつひこのみこと)は、桃太郎のモデルとされている、古代日本に実在した皇族の人物である。
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・自己責任の原則:万が一、現地でのトラブルや事故、損害が発生した場合でも、当ブログは一切の責任を負いかねます。必ずご自身の責任において、節度ある行動をお願いいたします。
聖地の景観と近隣住民の皆様の生活を守るため、一人一人の良識ある行動をお願いいたします。






天狗は空を走り火を操るキツネだって
お知らせ下さり感謝いたします!
さっそく再投稿させていただきました。
ありがとうございます!