227『三角の積み木』 異聞

pixiv
2016年8月25日 23:23

わたしの一番古い記憶は、鉄と油の匂いのする町工場の二階にある自宅で、一人遊んでいるときのものです。
記憶には父も母もいません。
ただわたしは与えられた部屋で、ぬいぐるみたちと積み木をしながら、足元から断続的に響いてくる機械の音を聞いているのです。
ぬいぐるみは熊と、耳が片方折れてしまった兎でした。
熊は言います。
「三角の積み木がないよ」
兎が言います。
「三角のは土台にならないから、いらないんだ」
わたしは言います。
「三角のはお屋根になるのよ」
ガチャンガチャンという金属音が夕焼けの差し込む部屋に響いて、わたしたちはやがて無口になります。
「夜に外をみてごらん。ひとつだけ黒い雲があるから」
熊がそう言って四角い積み木を屋根のかわりに乗せました。
「うん」

わたしはその雲を見たのかどうか、もう覚えていません。
引越しの日に部屋の隅から出てきてから、わたしの宝物になった三角の積み木。
手に取るたび、わたしは今でも窓の外を見あげ、空にひとつだけ黒い雲を探すのです。




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