・『死者の名』

新 鼻 袋 〜第四夜目〜

582 :ゴーストハンター:04/06/09 15:23 ID:kxuvABx7
「死者の名」

大学に入ったばかりのころ、私のコースの同期にUという変な男がいた。
風体が変なわけではなかったが、急に怒り出したり意味もなく走り出したり、とにかくエキセントリックな人物という評価で、
みんなから避けられていたようだった。
その彼が、あるとき講義の前に私の席にやってきてこう言ったのである。
「あのさあ、小田切くんさあ。俺、占い得意でさあ。
 このあいだ誕生日だったって聞いてさあ。いや、キミのね。
 それで勝手にキミのこと占ってみたんだけど・・
 キミ死んでるよね」
驚いた。
背筋がゾクっとした。
この男の気持ちの悪さに、ではない。
鍵の掛かっているはずの扉が開いたような、緊張感。
私は混乱した。


583 :ゴーストハンター:04/06/09 15:24 ID:kxuvABx7
「いや、まあそれはいいんだけどね。それはそれとしてこんどは別口なんだけど、俺霊感が強いんだよね。
 初めて会ったときから気になってたんだけど、キミの周りにキミがいるんだよね。
 こんなの初めてで、ちょっと俺も怖いんだけど。
 生きてるけど死んでるキミの周りに、死んでるキミが漂ってるって、これなんなのかなあ」
興味深そうな口調の割には、Uの顔は真顔だった。
そのとき講師が入って来て、Uはすんなり席に戻っていった。
講師が出欠を取り始めて私の名を呼んだとき、Uはこっちをじっと見ていた。
私はなにか異常なプレッシャーを感じながら「はい」といった。


584 :ゴーストハンター:04/06/09 15:25 ID:kxuvABx7
「ドッペルゲンガーって見たことある?」
その講義のあと、Uは私にまとわりついてきた。
「二重存在とかいう意味なんだけど、自分そっくりの人物にぱったり出会ったりすること、ない?」
私はこの男を遠ざけたいような近づけたいような、もわもわした気持ちで生返事を繰り返していた。
「え? ない? そう」
「じゃあ、幽霊みたことは? ない? あ、そう」
「シャンプーしてるとき、背後に何者かの気配、あ、これはある? あ、そう」
「ねえ、俺このあともう授業ないんだけど、俺んち遊びにこない? え? くる? おお」

終始Uのペースだった。
なんとなく、それでもよかった。
私の領域にずかずか入り込んでくるこの奇妙な男を、少なくとも撥ね付けることはできなかった。
                

585 :ゴーストハンター:04/06/09 15:26 ID:kxuvABx7
Uの下宿はボロだった。
「まあ入って、入って、座布団もないけど。どっかその辺に。ゴメンな散らかってて。
 晩メシにはまだ早いけど、なんか食う? あ、そう。
 じゃあ、悪いけど俺腹減ってるからこのパン食わしてもらうとして、
 お前一体誰なんだ」
Uの目に射竦められて、私は硬直した。
「小田切真一は死んでる。間違いない。俺の占いはタロットまがいのお遊びじゃない。じゃあお前は誰なんだ」
私が答えないでいると、Uはぶどうパンを齧りながら続けた。
「さっきの講義で、名前を呼ばれたとき、浮んでる方のお前も反応した。お前の返事より早く。
 ドッペルゲンガーっての俺もよく分かんないんだけど、そんな感じでもない気がする。
 どっちかってーと、もっと古風なやつ。
 とり憑いて、入れ替わったって感じ」
入れ替わり・・・
私はその言葉に頭を殴られたような気がした。


586 :ゴーストハンター:04/06/09 15:27 ID:kxuvABx7
「いまどきそんなお化けもないだろ、って感じだけどな」
Uはそう言いながら懐からトランプを出して、何枚かの札になにか文字をボールペンで書いた。
そして全部放り投げると、そのカードたちはひらひらと舞った後、すべて裏向けに落ちた。
「な?」
Uがカードを表向けると、すべてに「小田切真一」と書いてあった。
そしてUは真剣な顔でこういった。
「生きてる人間が、死んでる人間の名前を持ってちゃいけない」

私は気がつくと、Uにすべてを話していた。


587 :ゴーストハンター:04/06/09 15:29 ID:kxuvABx7
私に双子の兄がいたこと。
一卵性双生児で、親でも区別できないくらいそっくりだったこと。
時々、親をだまそうと服を入れ替えて遊んでいたこと。
そして小学校に上がる前の夏、内緒で入れ替わって遊んでいたとき、
ジャングルジムから兄が落ち、頭を強く打ったこと。
脳挫傷でほとんど即死状態だったこと。
駆けつけた母が、兄を見て私の名前を叫んだこと。
目の前でめぐるましく起こる出来事に、怖くて怖くてなにも言えなかったこと。
二人とも坊主頭だったこと。
二人とも虫歯がなかったこと。
セミがうるさかったこと。
うだるような夏日だったこと。
死んだのが「真一」だと知ったら、母はもっと悲しむかも知れない、そう思ったこと。

そして私は「真一」になった。


588 :ゴーストハンター:04/06/09 15:29 ID:kxuvABx7
膿を吐くように、私は言葉をしぼりだした。
私のもっとも深い所に仕舞ってあった秘密を告白したのだ。
Uは静かに聞いていた。
「真一は、恨んでるかな」
最後に私はつぶやいた。
Uは何も言わなかった。
ただ目をどこともなく漂わせていた。
私はこの不思議な男と、もし親友になれたら、
誰も知らない私の本当の名前を教えてもいいかもしれない、そう思いはじめていた。




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posted by 巨匠 | Comment(0) | ウニシリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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