136『刀』2/4

師匠シリーズ。
「『刀』1/4」の続き
【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ10【友人・知人】

341 :刀  ◆oJUBn2VTGE:2009/10/02(金) 22:38:36 ID:o7OYvvFV0
「近藤勇の愛刀ですよ。新撰組の。池田屋事件の功に対して、京都守護職の松平容保から拝領した物です。
 近藤勇と言えば虎徹の方が有名ですけど、そっちは偽名だったって言われてますね」
師匠は『なんだおまえ』という顔をした。
「詳しいな」
小川さんは急に真剣な顔つきになった。
「実家にいっぱいあるんで、刀やら脇差やら。門前の小僧程度ですけど」
そう言う僕の肩に、師匠は乱暴に手を置いた。
「よし、受けよう。その依頼」
「ええっ」と呻いてしまった。
もしかして、なんか失敗したら僕のせいにされるのではないか、という不安がよぎった。
「引き受けてくれるなら、早い方が良いって言ってたぞ。家まで来てくれって」
「じゃあもう今日とかでも?」
「二,三日はほとんど家に居るらしい」
師匠はさほど考えもせずに宣言した。
「今日、今から行くって電話して」
「了解」
零細興信所のたった一人の所員たる所長は、遅刻してきたアルバイトの勝手な都合をあっさり了承した。
「暇だろ?」
師匠は有無を言わせぬ笑顔をこちらに向けた。仕方がなかった。僕だって興味がある。

その後小川さんは倉持氏に電話をして、これからご指名の所員が助手を一人連れて行く旨を伝えた。
そして住宅地図を確認したり、先方に渡す契約書などについて師匠と簡単な打ち合わせをした後で、
落ち着かなげな様子で妙に言いよどんだ。
どうしたんだろうと思っていると、「あー」と、少し視線を上に向けてから、「まあ、なんだ」と言った。
「さっきはちょっと言い過ぎたな。悪かった。いつも変な依頼を回して、すまない」
小川さんは師匠に軽く頭を下げた。
ふっ、と師匠の顔が和らぐ。
「いや、すっぽかしたのは弁解できない。気をつけます」


342 :刀  ◆oJUBn2VTGE:2009/10/02(金) 22:44:46 ID:o7OYvvFV0
「そうだな」と言ってから、小川さんはネクタイの先をねじった。
「まあ、そういうことをするなとは言わないけど、昼間っからってのはちょっと控えるんだな」
ん?と言う顔をした。僕と師匠で。
小川さんは自分の首筋を叩いて見せた。思わず二人ともその首のあたりを見つめる。細い首だ。
ハッと気づいた表情をして、師匠は自分の首筋を触りその指先に視線を落とす。
薄っすらと赤い色がついている。首筋にもかすれて広がった丸い微かな赤い跡。
あ、印鑑の。そう思った瞬間、「このボケェ」という怒声とともに、師匠の足が鳩尾に飛んできた。

「痛ってぇ」と、右腕をさすりながら事務所の階段を下りていると、師匠が何かを思い出したのか、
「ちょっと外で待ってろ」と、一人で引き返して行った。
事務所の下の喫茶店の前で、顔見知りのウエイトレスと立ち話をしていると、嬉しそうな顔をして師匠が下りて来る。
「なんか食ってこうぜ」
そう言って、千円札を何枚かヒラヒラさせた。
どうやら調査費を前払いしてもらったらしい。
しかし、家に行って刀を見るだけの仕事で、調査費なんて使うことあるんだろうか。
疑問に思ったが、まあくれたからには使っていいのだろう。
「でも今から行くって電話したばかりですよ」と諌めると、師匠は恨めしそうな顔をして、
「じゃあさっさと片付けてこよう」と、僕をせかし始めた。

コピーした地図を見ながら、自転車に二人乗りして目的地に向かう。
蒸し暑さに何度も汗を拭いながら、ペダルをこぐこと二十分あまり。
古い家の並ぶ住宅街の一角に倉持氏の家を発見した。
「へぇ」と言いながら、師匠が後輪の軸から足を下ろす。
想像していたより立派な日本家屋だ。数寄屋門から覗く庭がかなり広い。
門の傍らについていたインターホンで来意を告げると、倉持氏本人の声で「どうぞお入りください」と返答があった。


345 :刀  ◆oJUBn2VTGE:2009/10/02(金) 22:49:13 ID:o7OYvvFV0
庭と言うより庭園とでも言うべき景色を見ながら、石畳の上を歩いて玄関にたどり着くと、
ガラガラと戸が開いて、和服姿の老人が出迎えてくれた。
「倉持です」
痩身から引き締まった表情の顔が伸びている。七十年配だと聞いていたが、矍鑠とした姿はもう少し若く見えた。
「どうぞ、お上がりください」
値踏みするように師匠を見つめながら右手を流す。
僕は緊張したが、師匠は平然と靴を脱いで、倉持氏の後をついて行った。
涼しげな音をさせる板張りの廊下を進み、僕らは庭に面した広い和室に通された。
「いまお茶を」と倉持氏が消え、ほどなくして戻って来たときには、お盆の上に高級そうな和菓子も一緒に乗せられていた。
主人と客がそれぞれに居住まいを正し、もう一度名乗りあった。
僕もおずおずと名刺を差し出す。
「坂本さん」
まだその響きに慣れない。
偽名を使うのは所長に無理やりあてがわれたからだが、いつもこの嘘が見抜かれないかと不安になる。
僕の将来に対する配慮らしいが、そんなやっかいごとに巻き込まれる可能性を恐れるなら、
そもそもこんな師匠みたいな人について回りはしないのだが……
「僕の方は助手というか、あの、ただの付き添いです」
口調が気に入らなかったのか、師匠が『堂々としてろ』と目で発破をかけながら僕の足を小突いた。
「さっそくですが、ご依頼の品をお見せいただきたい」
契約に関するやりとりを終えて、師匠はそう切り出した。
「ええ、いま」
倉持氏は両手をついて立ち上がった。
二人だけになった部屋で、僕は師匠に声をひそめて話しかけた。
「なにか感じますか」
静かな日本家屋は、外の蒸し暑さが心なしか緩和されたような空間で、少しづつ汗が引いていくのが心地よかった。
師匠は畳から壁、そして天井の四隅へと首を巡らせた後で、「なにも」と言った。


347 :刀  ◆oJUBn2VTGE:2009/10/02(金) 23:01:12 ID:o7OYvvFV0
僕も同感だった。心霊現象の気配などなにも感じない。どうやら倉持氏の思い込みの可能性が高いようだ。
ということは、自分の所有する蒐集物の中に人を斬った刀があって欲しいという、
彼の願望がいかに強いかということを暗に示している気がして、少し気が重くなった。
先だっての勉強会で、金銭の多寡を超えたその付加価値の存在を認識してしまったことが、
彼の精神に与えた影響は大きいと思わざるを得ない。
そしてそれは、この依頼の難易度にも関わる問題だった。
もし刀を見ても師匠がなにも感じ取れなければ、その通り告げて終わるというものではないかも知れない。
だからあの倉持氏のいかめしい表情のことを思うと、どうしても気が重くなるのだった。
「お待たせしました」
その当人が戻って来て座につく。想像に反してその手は空だった。
そんな僕らの視線に反応して軽く笑みを浮かべる。
「ご鑑定いただくものは、別室に用意してあります」
その前にと、倉持氏は含みを持たせるように少し間を置いた。
「ご評判を伺って相談した次第ではありますが、
 こうしたことは私も初めてですし、
 テレビなどで霊能者の方を拝見することがありますが、
 なかなかどうして皆さん、それぞれにやり方も違えば仰ることも違いますのでね、
 なんと申しましょうか、ま、私もそうした方にお会いする機会もなく、
 いったいぜんたいどういうものなのだろうと、こう思う所もございまして」
師匠の顔が曇った。
回りくどい言い方だが、ようするに証拠を見せろと言っているのだ。
人を斬った刀かどうか、人知を超えた力で鑑定するのというのだから、
それが何の能力もない人間に、適当なホラを言われたのではたまらないということか。
自分から頼みに来ておきながら、したたかなものだ。
どうするのかと思って見ていると、師匠は軽く息を吐いて、「いいでしょう」と言った。
「私は死者の霊と交感することができます。
 ですから、もし人を斬り殺した刀があれば、そこにこびり付く死者の霊を見ることができるでしょう。
 ……たとえば、あなたの背中に今も寄り添う奥様のように」


348 :刀  ◆oJUBn2VTGE:2009/10/02(金) 23:03:40 ID:o7OYvvFV0
空気が変わった。倉持氏の顔が緊張で震える。
「どうしてやもめだと?」
「見えるからですよ。そして奥様は、私に様々なことを教えてくれます。
 あなたは先代から続く食料品の卸業で、立派な家を建てられた。
 今では息子さんに会社を譲られ、悠々自適に暮らして趣味を楽しまれている。
 隣に並んでいるのが、その息子さん夫婦の家ですね」
コールドリーディングだ!
僕は興奮した。
たぶん奥さんの霊が見えるというのは嘘だ。さっきこの家になにも感じないと言ったばかりだから。
ということは、師匠は実際に目にしたものや、相手との会話から情報を引き出しているに違いない。
インチキ霊能力者と同じ手口を使っているのだ。そうして信用を勝ち取ろうとしている。
なんて人だ。
僕は畏敬と呆れるような思いが入り混じったモヤモヤした気持ちのまま、
その師匠がどこで情報を得たのかと、目を皿のようにして倉持氏の身に着けているものや部屋の間取、家具などを探った。
そして、これまでのやりとりを思い浮かべる。
そう言えば、倉持氏自身がお茶を運んで来たことなどは、今現在独り身であることを示唆しているようにも見えるが、
たまたま奥さんが外出中であったり、病院に入院中であったりというケースだって考えられる。
僕にはまったく想像がつかない。どうやって師匠はここまで推理できたのか。
「息子夫婦は確かに隣に住んでおりますが、今も息子のやっている食料品の卸の屋号は、私の名字と同じです。
 広いようで狭い街です。聞き覚えがあったのではないですか」
倉持氏は震える声で、それでも頑張っている。
「いえ、残念ながら。それと奥様はあなたのご病気を心配されていますね。
 ……心臓ではないですか。倒れたこともおありのようだ」
「む」
倉持氏は息が詰まったような声を漏らした。







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posted by 巨匠 | Comment(0) | 師匠シリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする


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