104『ビデオ 中編』3/3

師匠シリーズ。
「『ビデオ 中編』2/3」の続き
【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ7【友人・知人】

938 :ビデオ 中編  ◆oJUBn2VTGE :2009/02/15(日) 00:02:14 ID:Qzrou5dq0
思わず立ち上がった。
何度も死ぬ。サトウイチロウは何度も死ぬ。
昭和期から続く正体不明の蘇る死者が、目の前に広げた古びた紙の中に確かにいた。目立たない小さな活字となって。
俺は得体の知れない感情に震える。いるんだ。こんなものが本当に。
恐れとも達成感ともつかない興奮状態に陥った俺は、夢中で官報を捲り続け、
昼の三時を回るころには、サトウイチロウの名前を四つ発見していた。
昨日のと合わせて五つ。微妙なものも合わせるともう少し増えそうだし、見落としたものもあるかも知れない。
昭和三十年代も前半に来て、まったくそれらしいものが見当たらなくなったので、作業を終えることにした。
最も古いサトウイチロウは、昭和三十七年十二月。
越山駅という前原駅から数えて西へ六つ目の駅で、地図で見る限りかなりの田舎町にあると思われる。
そこで夜八時ごろ、特急列車に轢かれているのを発見された。
コート姿で、顔は帽子とマスクで覆い、手には手袋、そして所持品の中にサトウイチロウの名前入りの財布。
まるでビデオで巻き戻し再生をしたように、同じ状況が繰り返されている。
本当に同じ人物なのかも知れない。そんな不気味な想像が沸いてくるのを止められなかった。
俺は図書館を出て、師匠の家へ向かった。腹が減っているのもすっかり忘れて。

到着しドアをノックすると、「開いてるよ」といらえがある。
「知ってます」と言いながら上がりこむ。
師匠はドアに鍵を掛けないので、いつもながらバカバカしい儀式だと思うが、
以前、ノックせずに開けると、中がたいへんな状況だったことがあり、
それ以来、一応儀礼的に声を掛けるようにしているのだった。
もっとも、見られた本人はいたって平然としてはいたが。
「で、どうだった」
俺は今日の戦果を広げて見せた。官報を書き写したノートだ。師匠は黙ってそれを読み始める。


939 :ビデオ 中編  ◆oJUBn2VTGE :2009/02/15(日) 00:08:20 ID:0JItplbL0
「ふん。なるほど。同じだな」
「どうしてそんなに落ち着いてられるんです。凄いことですよこれは」
身を乗り出した俺を制するように手を広げた師匠は、ノートを手に取って頭を掻いた。
「ここ……、昭和四十五年のやつ。これ、サトウイチロウって文字が出てこないけど、わざわざメモってあるのは」
「ええ、吉田さんが遭遇した事件だからです。年代も駅名も合ってますから、間違いないはずです。
 どうして名前が出てこないのか分かりませんが。
 他にも、名前が出てこないけど、それっぽいのがいくつかあります」
「まあ、それはそれとして。
 てことは、ここ。『列車に轢かれて』としか書いてないけど、
 吉田さんの記憶によれば、これは特急の通過列車のはずだな」
なにが言いたいのか分からなかったが頷いた。
ふんふんと師匠はしきりに納得しながら、ノートを持ったまま立ち上がり、部屋の中を歩き回り始めた。
「どうして誰も気づかないんだろう」
考えながら、俺は独り言のように口にした。
同じ人物が何度も死ぬなんて、不可解な事件なのだ。警察だって調査してるはずなのに。
「実はな。昨日、第一報を聞いてからちょっと気になって、調べてみたんだが、
 前原駅とその両隣の駅では、警察の所轄が違うんだよ。
 ええと、どれだっけ・・・これか。
 俺たちがビデオで見た、前原駅の事件のイッコ前、高遠駅の事件。
 この二つは距離的には近いけど、年数もかなり離れているし、所轄が違うんだ。
 関連性には気づきにくいだろうな。
 高遠駅の方は、サトウイチロウの文字が出ていない。
 実際は財布に書かれていたのかも知れないが、身元を表すものとしては、重要視されていなかったのは間違いない。
 警察としても二つの事件を絡めて考え、同一人物の可能性があるなんて、バカなことは思っていなかったはずだ」
「でも、この官報の記事を書くのは警察じゃないですよ」
「あ。おっと、そうか。自治体だったな。すまん」
師匠は立ち止まって自分の頭を叩く。
その時、俺は重要なことを思いついた。


942 :ビデオ 中編  ◆oJUBn2VTGE :2009/02/15(日) 00:12:39 ID:Qzrou5dq0
「待って下さい。遺骨は自治体が保管するっていうのがテンプレートになってますが、遺品はどうなんです。
 コートは。マスクは、帽子は。ネーム入りの財布は」
「ん。書いてないか。ないな。でも確か、遺品も自治体が保管するって聞いたことがあるよ。最初そう言ったろ。
 ひょっとすると、火葬のとき一緒に焼くこともあるかも知れないけど。
 いや。でも、本人確認のための証拠品だからな、官報を見て問い合わせがあった時にないとまずいだろう」
「じゃあ、そのネーム入り財布は、自治体の金庫だかどこだかにあるはずなんですよね」
「そういうことになるね」
もしサトウイチロウが同一人物で、死んだ後に再びこの世に戻って来るのだとすると、所持品はどうなる? 
金庫の底で眠っているものを、もう一度その手に取るのだろうか。
俺と師匠は手分けして、ノートに出てくる市町村役場に電話をした。
「あの、古い官報を見たんですが、そちらが遺骨を保管されている人が、
 もしかして、自分の身内かも知れないと思いまして……」
そんな嘘を並べて情報を聞き出し、こちらの連絡先を、という話になるといきなり電話を切る、
という実に迷惑な戦法で、俺たちは気になる部分を調べ上げた。

小一時間経って分かったこと。
1.役所は引継ぎが下手
2.公務員はめんどくさがり
この二点だ。
とにかく、前の担当から、行旅死亡人の仕事をまともに引き継いでいない。
それが、三代前四代前と古くなって行くにつれ、何がどこにあるのかさっぱりだ。
『遺品ですか。古い倉庫のどこかにあると思いますが、なにぶん昔の話で……』
って、そんなセリフは聞き飽きたから、いいから探せよ、と言いたくなるが、
『調べて折り返し電話しますから、そちらの連絡先を……』ガチャン。
連絡先を知られるのはまずい。なにせ身内なんて嘘だからだ。
確かめてみたら間違いでした、っていうのでも問題ないとは思うが、こういう嘘で乗り切るのは苦手だった。


944 :ビデオ 中編  ◆oJUBn2VTGE :2009/02/15(日) 00:17:35 ID:Qzrou5dq0
その点、師匠はずぶといのか、生き別れの甥っ子になりすまして、遺品のありかを探し当てるのに成功していた。
しかし。
『……ありましたよ倉庫に。でも変だなあ。一式入れてあるはずの袋が空なんですよね。別の場所に移したのかな。
 でも遺品の明細は入ってましたから、確認できますよ。もしもし、聞こえてますか。あれ?もしもし……』
ガチャリと受話器を置いた師匠が笑みを浮かべる。
「空っぽだってさ」
結局、まともに確認できたのはこの一件だけだったが、何が起こっているのか理解するのには十分だった。
さすがに遺骨のある寺まで同じように調べるのは無理だったが、
現地に忍び込んで納骨堂を暴くと、骨壷は同じように空になっているのかも知れない。
薄ら寒くなってきた。ありえないと思っていたことが、次々と現実的な姿で現れてくる。

「とまあ、ここまで分かったところで、どうする」
師匠がぼんやりと言った。どうすればいいんだろう。
怪談話の収集としては、もうここらで置いた方がいいような気がする。
でも俺たちは、ビデオを見てしまっていた。五年まえの前原駅の事件を。
そして、そのビデオテープの持ち主が、寺に供養を頼みに来た。心霊写真等の供養で密かに有名な寺にだ。
なにがあったのか。ビデオに映っていた白い仮面の人物と、カメラマンに一体なにが。
師匠も同じことを考えていたのか、無造作に転がっていた例のビデオテープをデッキに入れようとした。
「待って下さい。いいです。もういいです」
あの晩に何度も繰り返し見たそれを、今はもう一度見る勇気が無い。
「腹減ったんで、帰ります」
そう言って立ち上がろうとした。
師匠は「そうか」と口にすると、ノートを俺に返そうとした。


948 :ビデオ 中編  ◆oJUBn2VTGE :2009/02/15(日) 00:23:04 ID:Qzrou5dq0
「持ってて下さい。あげますから。何か気がついたら教えてくれれば……」
俺が手を振った時だった。師匠はニヤリと笑うと言った。
「じゃあ、さっそく気がついた点だ。ビデオの中の事故は、駅のホームで轢かれている。
 ノートによると、下り特急列車が通過中に、とある。次の高遠駅も、特急列車の通過中の事故だ。
 さっき確認したが、吉田さんの時も、特急の通過した後に発見されている」
そう言えば、師匠がしきりに頷いていた。
「その他のケースも、特急列車に轢かれているのがほとんどだ。
 確認できる最も古い越山駅のものも含め、通過列車とは明記されていないものも多いが、いずれも小さな町の小さな駅だ。
 まるで、そういう場所ばかり狙ったように。
 つまり、特急が停まらない駅ばかりなんだ。
 ということは、ほぼすべてのケースで、通過列車に轢かれていることになる」
師匠がなにを言い出すのか、じっと聞いていると胸がドキドキしてきた。
師匠が興味を持った部分、そこには大抵、不気味でグロテスクなものが潜んでいるから。
「北村さんが言ってたんだろ。『停車駅だと減速しているから、通過の時みたいにスパッといかないのよ』って」
なにが言いたい?分からない。なにが言いたいんだ?
「どうして通過列車なのに、バラバラなんだ」
ピクリと来た。そうか。吉田さんの話を聞いていて、微かな違和感があった気がしたが、そこだ。
噂では、サトウイチロウの死体はいつも決まってバラバラだ。
なのに、吉田さんの時もそうだが、通過列車でそうなったというのは少し変ではないか。
停車直前の列車に巻き込まれた、というなら分かる。
しかし、通過列車では、跳ね飛ばされるか車輪で轢断されるにしても、
北村さんに言うようにスパッと切れるのではないだろうか。
素人考えだが、少なくともバラバラと言われるほど、多くの肉片になるとは思えない。
慌ててノートを見返す。
官報には轢死と書いてあるばかりで、バラバラ死体なのかどうかははっきり分からない。
だが、その年恰好の部分に目が釘付けになる。


950 :ビデオ 中編 ラスト  ◆oJUBn2VTGE :2009/02/15(日) 00:26:47 ID:Qzrou5dq0
前原駅の事故では、『年齢20歳から40歳の男性、身長160から170センチ位』とある。
高遠駅のものは、『年齢20〜40歳位、身長165〜170cm位』。
その他を見ても、年齢や身長にかなりの振れ幅がある。
最大のものは、年齢で20〜50歳位、身長で160〜175センチ位となっている。
死後、何年も経過しているわけではないのだ。
すぐに検視したのなら、年齢はともかくとして、身長は正確な数字が分かっていいはずだ。
たとえ胴体が真っ二つになっていようと。
それが、正確に測れないような死体の状態を、暗に示しているのだとしたら……
バラバラ。
みんなバラバラなのだ。無数の肉片になって、線路に撒き散らされているのだ。
そうならないはずの通過列車なのに!!
ごくりと喉が鳴る。目の前で師匠の瞳が妖しく輝いている。
「あのコートの下は、はじめから……」
師匠の唇がゆっくりと動く。
頭の中で、ビデオで見たコートの男の姿が再生される。
列車がホームに飛び込んでくる直前の一瞬の映像。
荒い画質の中で、コートの中がもぞもぞと動く。
帽子とマスクに覆われた顔のその奥は。
やめてくれ。聞きたくない。
耳を塞ぐ。
「帰ります」
そう言って師匠の部屋を飛び出した。







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posted by 巨匠 | Comment(0) | 師匠シリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする


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