087『怪物 「転」』2/4

師匠シリーズ。
「『怪物 「転」』1/4」の続き
【霊感持ちの】シリーズ物総合スレ4【友人・知人】

30 :怪物   ◆oJUBn2VTGE :2008/07/21(月) 01:03:22 ID:qlom6ToI0
先輩が小学校4年生くらいのころ、家の中でおかしなことが立て続いて起こったそうだ。
例えば、食器が棚から勝手に飛び出し地面に落ちて割れたり、
窓のカーテンが風もないのにまくれ上がったり、
部屋のどこからともなく何かがはじけるような音が断続的に響いたり、
ある時など、家族の目の前で花瓶に挿していた花がフワフワと宙に浮き始め、
いきなり凄い勢いで天井に叩きつけられたこともあったらしい。
それが数日置きに何週間も続き、ある時パタリと止んだかと思うと、またしばらくして急に起こり始める。

困惑した両親は、ついに有名な祈祷師を紹介してもらい、家のお払いをしてもらった。
その後、物が動いたりといったことはなくなり、
何かがはじけるような物音や、屋根裏を誰かが這っているような音は時々あったそうだが、やがてそれも起こらなくなった。
今お邪魔しているこの家でのことだ。
思わず部屋の天井の辺りを見上げたが、特になにも感じる所はなかった。

「聞きたいのは、石が降ってきたことがあったかどうかです」
「石?家の中に?」
「家の外でもいいですけど」
先輩は記憶を辿るような視線の動きを見せた後、「なかったと思う」と言った。
「じゃあ石じゃなくてもいいですけど、
 家の中になかったはずのものが、どこからともなく現われたりしたことは?」
「……お皿とか果物とか、色々飛んだり落ちたりしてたけど、全部家にあったものだからなあ。
 ないモノが出てくるって、なんか凄いね。サイババみたい」
先輩は面白がって、最近テレビで見たという、サティア・サイ・ババのアポート(物品引き寄せ)について喋りだす。
「こんなしてさ、手のひらぐるぐる振ってから、出しちゃうのよ」
テーブルの上にあった鋏を手に持って、その様子を実演してみせてくれる。
私は少しがっかりした。


31 :怪物   ◆oJUBn2VTGE :2008/07/21(月) 01:05:06 ID:qlom6ToI0
「そんなにポルターガイストとかに興味あるの? 
 あたしも最近は全然だけど、むかし気になって色々調べたから、そっち系の本があるよ。
 読みたいなら貸すけど」
「是非」と言うと、先輩は「ちょい待ち」と部屋の本棚をゴソゴソと探し回って、何冊かの本を出してきてくれた。
いずれもオカルト系の雑誌の類だ。それぞれポルターガイスト現象に関する所に付箋がついている。
礼を言って、おいとまをしようとした時、先輩が私の顔をまじまじと見つめてきた。
「あなた、ちょっと変わったね」
先輩こそ、剣道部で後輩をしごいていたころからしたら、随分肉がついてしまってるじゃないですか。
そんなことを婉曲に言ってみたが、先輩は自分のことはまったく耳に入らない様子で、ブツブツと口の中で呟いている。
「変わったというか、変わっている途中、みたいな」
その瞬間、背筋に誰かの視線を感じた気がして振り返りそうになる。
「あ、ごめん。気にした?まあ、また今度ゆっくり話そ」
なんだろう。今の感じ。
その嫌悪感を、私は“知っている”。そんな気がした。
玄関を出て、家の前で見送ってくれる先輩に最後に一言だけ問いかける。
「最近、怖い夢を見ませんでしたか」
先輩は顔を強張らせたかと思うと、柔和な笑みでそれをすぐに包み隠す。
「そう言えば今朝がた見たけど。変な夢だったな。ありえない夢」
オヤスミ。と手を振って先輩は家の中へ消えていった。誰もいない、たった一人の家に。

私は自転車に乗っかると全速力で漕ぎ出した。
家に帰り着くのが遅くなるにつれて、母親の小言の量が比例して増えるのだ。
星を空に見ながら夜の道を急いだ。


33 :怪物   ◆oJUBn2VTGE :2008/07/21(月) 01:07:36 ID:qlom6ToI0
「ポルターガイスト現象の事例として名高いのは、
 1848年、ニューヨーク州ハイズビルの、フォックス家を襲った怪現象がその筆頭として挙げられる。
 また近年では1967年、ドイツのローゼンハイムにある、アダム弁護士事務所で起きた事件や、
 1977年以降、ロンドン北部エンフィールドの、ハーパー家で起きた怪異も広く知られている」
そんな説明を読みながら、ふと、学校の教科書もこのくらい熱心に見ていたら、もっと成績も上がるだろうに思い、
自虐的な笑いが込み上げて来る。
もう時計は夜の12時を回っている。
先輩から借りた本をさっそく読んでみたのだが、かなりの分量がある。
明日も学校があるし、適当なところで切り上げて早く寝た方が良いと分かっているのだが、
何故か気が逸って手を止められない。
ハイズビル事件では、
フォックス家の次女マーガレット(15)と三女ケイト(12)の周辺で、壁や天井を叩くような奇妙な物音が聞こえ始め、
その物音とある合図によって交信を図ることで、霊とのコミュニケーションをとることに成功したと言われている。
ローゼンハイム事件では、電話機の異常から始まり、
蛍光灯の落下や電球の破裂、金庫やオーク材のキャビネットが独りでに動くなどの、怪現象が起こった。
エンフィールド事件では、娘のジャネット(11)が部屋で聞いた『何かを引きずる音』に端を発し、
おはじきや積み木が空中を飛んだり、タンスが独りでに数十センチも動いたり、
ジャネットが寝ようとすると、ベッドからトランポリンのように投げ出されるといった、
不可思議な出来事が1年あまりも続き、
その間に近所の住民やマスコミ、ソーシャルワーカー、イギリス心霊現象研究協会のメンバーなど、
延べ30人以上の人間が、これらを目撃したと言われている。
その他の様々な事例の紹介を見ていくと、本の総論として解説されるまでもなく、
かなりの割合でその現象の焦点になっているのが、ティーンエイジャーの若者、それも女性であることに気づく。


35 :怪物   ◆oJUBn2VTGE :2008/07/21(月) 01:10:12 ID:qlom6ToI0
ローゼンハイム事件では、弁護士事務所の秘書アンネマリー・シュナイダーが、現象の中心にいたとされているが、
彼女は当時まだ18歳であり、怪現象は彼女が出勤している時にばかり起こっていることを、
超心理学研究所のハンス・ベンダー教授に指摘されている。
その後、アンネマリーが解雇されると、怪現象はピタリと収まった。
ポルターガイスト現象とはその名の通り、ポルター(騒がしい)・ガイスト(霊)の起こす現象とされることが多かったが、
近年では様々な解釈がなされている。
低周波や水撃音などで科学的に説明しようとするものや、売名目的のでっちあげとする説、
また超心理学者などは、これを超常現象の一種であると位置づけている。
その超常現象説では、現象の焦点になっているのが若年者であることに注目し、
精神的に不安定である思春期前後の彼女らが、抑圧されたフラストレーションの捌け口として、
無意識的にサイコキネシス現象を発動しているのではないかとした。
超心理学者たちは、この現象をRSPK(反復性偶発性念力)と呼ぶ。
無意識に起こるPKなので、その当事者も基本的には自らを被害者であると認識している。
エンフィールド事件では、焦点となったジャネット自身、ベッドから跳ね飛ばされて寝れないという被害を受けている。
その瞬間を捉えたという写真が本に掲載されていたが、なんともコメントしづらい写真だ。
宙には浮いているのだが、自分で跳んでいるようにも見える。
「RSPKか」
ボソリと口にすると、なんだか面映い。
そんな変な言葉で説明するより、もっと単純な解釈があるように思えてならない。
思春期の子どもがいる家で起こった現象なら、真っ先にイタズラじゃないかと疑うべきだろう。
実際ハイズビル事件では、フォックス姉妹が後に、
あれは関節を鳴らすなどした自分たちのトリックだったと告白しているらしい。
一つの事例がトリックだったからといって、すべての事例がトリックだと断言するのは乱暴だが、疑われてしかるべきだろう。


38 :怪物   ◆oJUBn2VTGE :2008/07/21(月) 01:12:49 ID:qlom6ToI0
ただ、ローゼンハイムの事件では、
事務所の備品が破損したり、掛けていないはずの電話で多額の電話代を請求されたり、といった実害があったために、
電気系統の技術者や物理学者、警察などが調査にあたったが、いずれも合理的な説明を出来なかったという。
ノイローゼ気味だったという秘書のアンネマリーが起こしたイタズラだとするには、
複数の人間の目の前で動いた180キロのキャビネットは重すぎた。
そのためローゼンハイム事件は、最も信憑性の高いポルターガイスト現象の例とされているそうだ。
信じるか、否か。それが問題だ。

本を閉じ、昨日一日でこの街に起こった出来事をひとつひとつ考えてみる。
音だけの工事。
棚から飛び出した図書館の本。
コンビニ内の怪現象。
駅前のビルの奇妙な停電。
掘り出された並木。
ガソリンスタンドの揺れる給油ホース。
針がでたらめに動くアーケードの大時計。
そして石の雨。
いずれも、ポルターガイスト現象の例に含まれてもおかしくない内容だ。
逆に言うと、ポルターガイスト現象がそれだけ間口の広い、言わばなんでもありの括り方をされているということだろう。
先輩は経験しなかったという石が降るという現象も、過去の事例を紐解くと散見できた。
石降り現象はどちらかというと、心霊現象というよりRSPK説を補強するようなものと言えそうだ。
ただ、昨日街で起きた事件のうち、ポルターガイスト現象と呼ぶには少しおかしい部分がある。
それは工事の音と、並木、大時計、そして石の雨の4つだ。
これらはいずれも、家屋の中で起こったものではない。
ポルターガイスト現象は、基本的には家屋の中で起こるものとされているのに。


40 :怪物   ◆oJUBn2VTGE :2008/07/21(月) 01:14:52 ID:qlom6ToI0
あるいは、ガソリンスタンドの事件も、屋外としてもいいかも知れない。
イタズラにせよRSPKにせよ、屋外で影響を成した『焦点』とはいったい誰なのか。
大時計はなにか仕掛けが出来たとしても、
短時間で誰にも気づかれずに並木を掘り起こすことと、100メートルにも渡って路地に石の雨を降らせることは、
一体何者に可能だというのだろう。
そしてなにより、これらが昨日のたった一日で起こった出来事だという事実。
私の中で、ある気味の悪い仮定が生まれつつあった。
その仮定は、私の妄想の深い霧の中から、奇怪なオブジェとして現れてきた。
まだそのすべてが見えているわけではない。
けれど、わずかに覗くそれは、どうしようもなく不吉な姿をしている。
昨日一日で起きた怪現象が、それぞれ偶発的な個別のポルターガイスト現象でないとすると……

私は立ち上がり、窓のカーテンの隙間を指で広げる。
その向こう、闇の中には、まだ起きている家の明かりがぽつぽつと点在している。
それは、夜の海に浮かぶ儚い小船の明かりのように見えて、私を心細い気持ちにさせる。
目を閉じて心を落ち着かせ、夜のしっとりとした甘い匂いを鼻から吸い込む。
間崎京子は『エキドナを探せ』と告げている。
私は探さなくてはならないのだろうか?
怪物たちのマリアを。

怖い夢を見ていた気がする。
次の日、金曜日の朝。私は寝不足の瞼を擦りながら目覚まし時計を叩く。
昨日は何時に寝たのだったか。全身がだるい。そして寝汗をかいている。
ベッドの上に胡坐をかいて、髪の中に指を突っ込む。
ふつふつと記憶が蘇ってくる。







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