063『追跡』2/3

師匠シリーズ。
「『追跡』1/3」の続き
死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?177

471 :追跡  ◆oJUBn2VTGE :2007/09/26(水) 21:06:47 ID:gAYKdkL30
心の準備が出来るまで、次のページには行かないほうが良い。

という文字を3回心の中で読んでから、次のページをめくった。
「……まず、ゲームセンターのようです」
実際にある場所の名前が出てくる。
俺は彼女と二人で自転車に乗ってそこへ向かった。街なかの大きなゲームセンターだ。

中に入り一通り見て回るが、師匠の姿はない。
『追跡』に主人公がプリクラを撮る描写があったので、一応コーナーに行ってみたが、
若い女性たちでごった返していて気後れしてしまった。
それに先を読むと、結局ゲームセンターでは手掛かりはなかったということになっているので、
無意味だと俺は言ったが、彼女は「書いてある通りにした方がいい」と言う。
そのとき今更ながら、先に最後のオチの部分を読んだ方が早くないかと思ったのだが、
彼女が「そういうことをしたと書いてるの?」と言うので、首を振って諦める。
不吉な予感にドキドキしながらも、俺は俺なりにこの状況を楽しんでいたのかも知れない。

結局、連続して延々と同じメンバーでプリクラを撮っている女子高生たちに、イライラしながらも順番待ちの列に並び、
最後には彼女と一緒に写真におさまった。
『追跡』には主人公に女性の連れがいるとは書いてないが、まあこれくらいはいいだろう。
出てきたシールをまじまじと見ながら、俺はなんだか引っ掛かるものを感じていた。
それがなんだかわからないまま、次の場所を確認する。
「次は、雑貨屋です」

ゲームセンターから少し距離がある。
若者で溢れかえる通りだが、平日なので人手はさほどでもない。
自転車をとめて、カジュアルショップ周辺に広がるこじんまりとした地下街へと降りる。


473 :追跡  ◆oJUBn2VTGE :2007/09/26(水) 21:08:51 ID:gAYKdkL30
聞いたことはあったが、来るのは初めてだった。
ファッションには疎いので今ひとつよくわからないが、とにかく流行っている雑貨屋らしい。
和洋入り混じった色とりどりのアイテムを目の端に入れながらも、師匠の姿を探す。
しかしその影はなかった。一応店員にそれとなく聞いてはみたが、首を振るだけだった。
雑貨屋でもやはり手掛かりはなかった。
溜息をついて『追跡』を閉じる。
連れが見えなくなったので探していると、カツラのコーナーにいた。
『ウィッグ』だと訂正されたが、違いはわからなかった。
彼女はその後、血糊のついたようなデザインのピコピコハンマーが気になった様子で、
散々俺を待たせたあげく、結局別のものを買ったようだった。
店を出るとき、ゲームセンターのときにも感じた引っ掛かりがもう一度脳裏を過ぎる。
「次は……喫茶店です」
また自転車に乗って移動する。

地球防衛軍という怪しげな店名が出てくるが、俺も彼女も知らなかったので、
『追跡』の描写を頼りにそれらしき通りをウロウロした結果、ようやくビルの窓にその名前を見つけ出した。
古そうなビルの知らない店に入るときは、階が上なほどドキドキする。
入り口のドアを開けると、やはりというか、遊び心の多い内装が目に飛び込んで来た。
フィギュアやミニカー、インベーダーゲーム、そして漫画が店内狭しとならんでいる。


476 :追跡  ◆oJUBn2VTGE :2007/09/26(水) 21:10:48 ID:gAYKdkL30
ともあれ店内を見回したが、常連らしき数人の客の中には師匠はいなかった。
がっかりはしない。ここではわずかな手掛かりを得られるはずだから。
腹が減っていたのでラーメンを注文する。
『追跡』で主人公が頼むのを読んでいたので、メニューも見ずに言ったのだが本当にあったらしい。
目の前で袋入りの即席めんをマスターが開けはじめたときは、少し驚きはしたが。
待っている間、どこからか彼女が見つけてきた黒ひげ危機一髪で遊びながら、
黒ひげが飛び出たら勝ちなのか負けなのか意見の食い違いで揉めていると、
「出たら勝ち」と言いながら、マスターがラーメンをテーブルに置いていった。
食べはじめると足元に猫が擦り寄ってきた。
どんな店なんだ。

食べ終わって、ドンブリがどう見てもすり鉢だったことには突っ込まずに、マスターを声をかける。
「ああ、そういえば3,4日前に来てた」
やはり師匠は常連だったらしい。いい趣味をしている。
「連れがいたような気がする」
ポロリと漏らした一言に食いつく。
「いや、でもよく覚えてない」
わずかなヒントを得た。
『追跡』を確認するが、どうやらここではこれまでのようだ。諦めて店を出る。
ドアを閉めるときに、店の奥からビリヤードの玉が弾ける音が聞こえた。
「次は」と言いながら階段を降りる足が止まる。

心の準備が出来るまで、次のページには行かないほうが良い。


478 :追跡  ◆oJUBn2VTGE :2007/09/26(水) 21:11:51 ID:gAYKdkL30
何度目かのこの文章をめくると、次のページにはかなり核心に近づく展開があった。
「次は、ボーリング場です」
また自転車にまたがる。
この時点で彼女に俺の推測を告げるか迷ったが、表情を変えずに自転車をこぐ姿を振り返って思いとどまる。
やはり彼女は苦手だ。何を考えているかわからない。

自転車から降り、何度か来たことのあるボーリング場に入る。
「プレイは?」
「ここでは店員に話を聞くだけのようです」
少しやりたそうだった。
それを尻目にカウンターに向かう。
「ああ、多分わかりますよ」
師匠の名前を告げると、あっさりと調べてくれた。茶髪の若い店員だった。
客のプライバシーなどどうでもいい程度の教育しか受けていないのだろう。もっとも今はそれが有難かった。

しばらくすると、師匠の名前がプリントされたスコアが出てきた。日付は3日前で、午後2時。
やはり。以前一緒にボーリングをやったとき、本名でエントリーしていたのを覚えていたのだ。
師匠のGの多いスコアなどどうでもいい。
俺と彼女の視線は、もう一人の名前に集中していた。
それはどうぶつの名前だった。
その通り、『ウサギ』という名前が師匠の横に並んでいた。


481 :追跡  ◆oJUBn2VTGE :2007/09/26(水) 21:17:45 ID:gAYKdkL30
ゲームセンターから感じていた引っ掛かりがほどけていく。
プリクラ、流行の雑貨屋、ネタ系の喫茶店。
まるきりデートコースじゃないか。
そして動物の名前でエントリーするなんて、若い女性と相場が決まっている。
俺は恐る恐る彼女の顔を盗み見たが、その表情からは心中を推し量ることは出来なかった。
師匠よりもGの多い『ウサギ』のスコアからいやらしさのようなものを感じて、思わず目を逸らした。
なんとなく二人とも無言でゲームセンターを後にする。

心の準備が出来るまで、次のページには行かないほうが良い。
本当に心の準備が要った。
そして俺は天を仰いだ。
行けと?ラブホテルへ?彼女をつれて?
迷いというより腹立たしさだった。
そんな俺の混乱を知ってか知らずか、彼女は「次はどこ?行きましょう」と言うのだ。
行き先を告げないまま、暗澹たる思いで自転車をこぐ。
ホテル街へ踏み入れた時点で、彼女もなにが起こっているかわかっただろう。
近くの駐輪場に自転車をとめて歩く。
彼女は黙ってついてくる。
その名前があまり下品ではなかったことなんて、なんの慰めにもならない。
あっさりと見つけた看板の前で立ち止まって、俺は真横に指を伸ばした。


482 :追跡  ◆oJUBn2VTGE :2007/09/26(水) 21:21:14 ID:gAYKdkL30
「で、入るの?」
いつもと変わらない声色にむしろ緊張してくる。
ジーンズのお尻に挟んでかなりシワクチャになってきた『追跡』を広げ、「入ります」と言う。
「でも」と言いかけた俺を、引っ張るように彼女は中に入っていった。
俺はこのシチュエーションに、心臓をバクバクさせながらもついていく。
「205号室」と俺に言わせ、彼女は手しか見えない人から何かのカードを受け取る。
ズンズンと廊下を進み、部屋番号に明かりの点ったドアを開ける。
入るなりバサッと彼女はベッドにうつ伏せに倒れこんだ。
足が疲れたというようなことを言いながら、溜息をついている。
俺はいたたまれなくなって、冗談のつもりで師匠の名前を呼びながらクロゼットや引き出しを開けていった。
枕元の小箱は開ける気にならない。

風呂場の扉を開けたとき、一瞬、広い湯船の中に師匠の青白い顔が浮かんでいるような錯覚を覚えて眩暈がした。
そして湯気のなか、本当に湯が出っぱなしの状態になっていることに気づき、ゾクリとしながら蛇口を閉めた。
サーッと湯船から水があふれる音がする。少し綺麗な音だった。
これは掃除担当者の閉め忘れなのか、こういうサービスなのか判断がつかなかったが、
少なくともそのどちらかだと思うようにする。
部屋に戻ると、彼女がうつ伏せから仰向けになっていてドキッとした。
「手掛かりは?」
「髪の毛です」
風呂場でシャワーのノズルに絡み付いていた、かなり色を抜いてある茶髪をつまんでみせる。
長い髪だった。


483 :追跡  ◆oJUBn2VTGE :2007/09/26(水) 21:22:22 ID:gAYKdkL30
そのあと彼女の言葉はなかったので、それはゴミ箱に捨てた。
「もう出ましょう。……割り勘で」
そう言いながら彼女は身を起こした。
俺が払いますと口にしたくなったが、どう考えても割り勘がここからのベストの脱出方法だった。
先払いしていた彼女に2分の1を端数まできっちり手渡し、苛立ちと気恥ずかしさで、
俺は『ハイハイ、早くて悪かったね』と頭の中で繰り返しながら、彼女より前を歩いてホテルを出た。
自分でもよくわからないが、どこかにあるだろう監視カメラにぶつけていたのかも知れない。

ホテル街を抜けてから、『追跡』を開いた。
「次は、レストランに向かったようです」
順番逆だろ、と思いながら言葉を吐き出した。
昼間のうちにホテルなんて、まるで金の無い学生みたいじゃないか。
いや、まさにその金の無い学生なのだった。あの人は。

レストランまであと50メートルという歩道で、血痕を見つける。

ページの中ほどにその文章を見つけたとき、一瞬足が止まった。
そして急いで自転車に乗り、レストランへの途上で血痕を探した。
あった。
街路樹の間。車道が近い。探さなければきっと見落としていただろうそれは、とっくに乾いている。
誰の血だ?
周囲を見るが、夕暮れが近づき色褪せたような雑踏には、なんの答えもない。


484 :追跡  ◆oJUBn2VTGE :2007/09/26(水) 21:24:13 ID:gAYKdkL30
ただ、わずか数メートル先から右へ折れる裏道がやけに気になった。
車が通れる幅に加え、すぐにまた直角に折れていて見通しが悪い。
人ひとりいなくなるのにうってつけの経路じゃないか。
そんな妄想ともつかない言葉が頭の中に浮かぶ。
念のためにレストランまで行き、師匠の人相風体を告げるが、店員に覚えているものはいなかった。
デートはここまでだったらしい。
確かに何かが起きている。
「続きは?」
彼女に促されてページをめくる。
「タクシーに乗ります」

そして俺は、運転手に『人面疽』を知っているかと聞く。

人面疽?
どうしてそんな単語がここで出てくるのか。
困惑しながらも読み進めるが、どうやらこのページは、タクシーによる移動の部分しか書かれていないようだ。
風景などの無駄な描写が多い。
俺たちはタクシーを止め、乗り込む。
そして運転手に、人面疽を知っているかと聞いてみた。
40代がらみのその男は、
「いやだなぁお客さん、怪談話は苦手なんですよ」と言って、白い手袋をした左手を顔の前で振った後、
「ジンメンソはよく知りませんけど、こないだお客さんから聞いた話で……」
と妙に嬉しそうに、タクシーにまつわる怪談話を滔々としはじめた。
怪談好きの客と見てとってのサービスなのか、それとも元々そういう話が大好きなのかわからなかなったが、
ともかく、彼は延々と喋り続け、俺はなにかそこにヒントが隠れているのかと真剣に聞いていたが、
やがて紋切り型のありがちなオチばかり続くのに閉口して、深く腰を掛け直した。


490 :追跡  ◆oJUBn2VTGE :2007/09/26(水) 22:07:17 ID:gAYKdkL30
タクシーは郊外の道を走る。
降りるべき場所だけはわかっていたので、俺たちは座っているだけで良かった。
『人面疽』とは、体の一部に人間の顔のような出来物が浮かび上がる現象だ。
いや、病気と言っていいのだろうか。
オカルト好きなら知っているだろうが、一般人にはあまり馴染みのない名前だろう。
そういえば、師匠が人面疽について語っていたことがあった気がする。結構最近のことだったかも知れない。
なにを話していたのだったか。ぎゅっと目を瞑るが、どうしても思い出せない。
隣には膝の上に小さなバッグを乗せた彼女が、どこか暗い表情で窓の外を見ていた。

やがてタクシーは目的地に到着する。周囲はすっかり暗くなっていた。
運賃を二人で払い車から降りようとすると、運転手が急に声を顰めて、
「でもお客さん。どうして気づいたんですか」と言いながら、左手の手袋のソロソロとずらす素振りをみせた。
一瞬俺が息をのむと、すぐに彼は「冗談ですよ」と快活に笑って、『空車』の表示を出しながら車を発進させ去っていった。
どうやら元々が怪談好きだったらしい。
俺はもう二度と拾わないように、そのタクシーのナンバーを覚えた。
「で、ここからは」
彼女があたりを見る。
公園の入り口付近で、街灯が一つ今にも消えそうに瞬いている。フェンスを風が揺らす音がかすかに聞こえる。
俺はペンライトをお尻のポケットから出して『追跡』を開く。
いつなんどきあの人が気まぐれを起こすかわからないので、最低限の明かりはできるだけ持ち歩くことにしていた。







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posted by 巨匠 | Comment(0) | 師匠シリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする


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